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持続可能な農業への道 ―有機栽培減農薬農法  ナシ栽培の総合的病害虫対策

新進株式会社 主任研究員 農学博士 杜 建明
新進株式会社 研究員 福田 与一
新進株式会社 社長 玉造 和男
君崎農園園主 君崎 俊

はじめに

過去50年間にわたる化学肥料と農薬等の大量投入は近代的な農業の発展に対して重要な役割を果たしてきたが、環境保全、生物資源保護、人類の健康などに負の影響をあたえるという新たな問題が起きていることについては十分な認識がされていない。この現状のままでは、永遠に農業が持続可能であるとは言えない。持続可能な農業(Sustainable agriculture)は、経営利益がでる条件下で、永遠に自然資源と生態環境を保全し、生命の安全と人間の健康を保障し、社会に充分な農産物を提供できる農業である(Francis and Madden, 1993; Schaller, 1993)。そして、持続可能な農業こそが21世紀の農業の目指すべき目標なのである(嘉田、1998)。

このような現状において、現在の国内に於けるニホンナシの生産過程における病害虫防除は、ほとんど合成農薬防除に頼っている。その結果、販売されている果実の多くは20回前後農薬の噴霧を受けている。だが、その一方でコンフューザーP(伊澤、1999)や天敵(岡崎、1998)等の合成農薬以外の手段を用いた防除方法を活用することによって、ナシ栽培における農薬使用量の大幅な削減に成功している報告もあり、合成農薬に頼り切った栽培方法から脱却する動きが注目を集めている。

今回、当社では病害虫対策として、総合的害虫管理(IPM)および病害対策を採用したナシの栽培に挑戦した。IPM(Integrated pest management)とは複数の防除法を合理的に組み合わせて用いる害虫対策である(Schaller, 1993;中筋、1998)。また、肥料には、総合的病害虫管理区ではバーク堆肥と醗酵鶏糞を用いて、化学肥料は全く施用せずに有機肥料のみを施用した。慣行区は、有機肥料と化成肥料の混用施肥で行なわれた。

実施ナシ園の状況

今回総合的病害虫管理による栽培は、君崎農園の協力で茨城県千代田町にある広さが約2反のナシ園で実施された。このナシ園は、3方向が民家に隣接するという住宅地にある

。そのため、農薬の散布の際には、充分な注意を払う必要があり、散布を実施する場合でも早朝に限定されるという状況にある。このような状況のため、出来る限り農薬の散布回数を減らしたいのが、現状である。慣行区は、実施ナシ園より約250mほど離れた君崎農園所有のナシ園を利用した。作付け体系は、両区とも同様に、幸水・豊水・新高の3品種を混植して栽培している。そのため、収穫期が長期間になっている。

病害対策

主に機能水と漢方薬を用い、週に一回防除を実施した。機能水は、旭硝子エンジニアリング(株)の電解水生成器によって生成したものを使用した。この機能水とは強酸性水と強アルカリ水のことであり、共に人畜に無害な電解水である。強酸性水はpH=2.5〜2.7で抗菌作用があるため、病院などでよく使用されている。一方、強アルカリ水はpH=11.3〜11.7の電解水である(河野、1996)。漢方薬は、殺菌作用のある植物といわれている黄柏(オウバク)・陳皮(チンピ)・甘草(カンゾウ)・薄荷(ハッカ)・大蒜(ニンニク)・唐辛子(トウガラシ)・木酢液(モクサクエキ)・黄蓮(オウレン)等を直接加工して開発されたものを使用した。散布の際には天気が良い日を選び、はじめに、強酸性水+漢方薬を散布し、葉面が乾燥した後に強アルカリ水を散布した。また、強酸性水だけを散布する場合には、幼葉に障害が発生する恐れがあるので注意をする。

シンクイムシ類とハマキムシ類対策

去年の試験では、シンクイムシ類の被害(図1)によって収穫することができなかった。そこで、今年はコンフューザーPの棚面処理(図2)を行なった。

【1】果実と新梢に食入した
シンクイムシ類の幼虫(6月28日)

【2】棚面に設置された
コンフューザーP(8月11日)

ここで使用するコンフューザーPとはシンクイムシ類、ハマキムシ類の複合交信撹乱剤であり、効果が約4ヶ月間持続する。本剤の利用によって、ナシ園における殺虫剤使用量の大幅な削減が可能になると考えられる(伊澤、1999)。設置の際には、コンフューザーPをあらかじめ曲げておいたものを、束ねて袋などに入れておくか片手で持ち一本ずつ抜き取る。そして、棚線の交差している所や枝など移動しにくい場所に2回ほどひねってぶら下げていった。設置数は、1反当り180本で設置位置の間隔が均等になるように配置した。作業時間は、約2反のナシ園の設置に、一人で1.5時間程度であった。このコンフューザーPの設置によって性フェロモンがナシ園内に充満し、シンクイムシ類やハマキムシ類の雄雌の交信が撹乱され、実際に繁殖が顕著に抑えられ、被害が減少した。また、その効果の調査のために、設置区と慣行区の両区に3個のフェロモントラップを設置し、6月から10月までの捕獲数を調査して1つ当りの捕獲数に平均したものの比較を行なった。その結果、コンフューザーP区では、捕まえられたナシヒメシンクイ雄成虫の累計数は慣行区より極めて少なかった(図3)。

この原因としては、第一に2×5mmの細目防虫網の被覆により、 園外のシンクイガが侵入できなくなった点、第二にコンフューザーP設置により、園内のシンクイガ等の交信を撹乱し、次世代の発生を抑制した点の2点が原因と考えられる。これにより、コンフューザーP設置は充分な交信撹乱効果があることが明らかになった。また、慣行区では、ナシヒメシンクイガの捕獲数が多かったが、大した被害が出なかった。これは、慣行区の防虫網が粗く(10mm×10mm)外部からシンクイガの侵入が容易だった点と、慣行の防除により約一週間に一回農薬を散布しているので、定期的に卵や孵化した幼虫が殺され、あまり果実に食入する機会を与えなかった点の2点が原因と思われる。

アブラムシ対策

粘着くんにより2回の防除を実施した。本剤は粘度があるデンプン液剤なので、薬液のかかったアブラムシは、乾くまでに死亡する。また、総合的防除により、アブラムシの天敵であるナミテントウ(大久保、1998)が園内に繁殖し、アブラムシが捕食される姿が頻繁に観察できた。6月10日に、任意の新梢10本を調査しそこに生息するナミテントウ成幼虫数の平均を求めた結果、成虫数は総合管理区と慣行区でそれぞれ5.6匹と0匹であった(表1)。また、幼虫数は総合管理区と慣行区がそれぞれ0.5匹と0匹であった。このように慣行区では、園内を調査してもナミテントウを発見することができなかった。この原因としては、防虫網により園内外へのナミテントウの往来が妨げられたためと、ナミテントウは殺虫剤に極めて弱いので園内に生息していたものは、農薬により殺されたための2つが考えられる。一方、総合防除区では、6月末まで殺虫剤を使わなかったので、ナミテントウがかなり繁殖し、アブラムシ類の密度低下に影響を与えたと思われる。

表1 土着ナミテントウの数量(匹/10新梢)

処理区 成・幼虫 匹数 平均
総合管理区 成虫 7 4 6 3 6 11 3 8 5 3 5.6
幼虫 0 0 0 1 0 0 1 0 3 0 0.5
慣行区 成虫 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
幼虫 0 0 0 0 00 0 0 0 0 0 0

6月10日に各処理区10ヶ所の調査結果

また、リンゴ栽培においてもナミテントウを放飼処理することにより、アブラムシ類の密度を抑制することができたという本実験と同様の結果が報告されている(岡崎、1998)。これらにより、ナミテントウの天敵素材としての有効性が証明できると思われる。今回のナミテントウの例に見られるように、天敵生物は宿主特異性があるため、標的害虫以外の生物に悪影響を及ぼすことが少ないので、総合的害虫管理(IPM)の基本理念に合致する素材として注目されている(岡田、1999)。

農薬補助防除

4月8日、7月1日、20日、8月6日、21日、9月19日合計6回の農薬防除を実施した(表2)。本地域慣行農法の24回前後(週一回)の農薬防除と比較すると、7割以上の減農薬と言える。

表2 平成11年度新進(株)ナシの総合減農薬防除暦 **

月/日 資材等 対象病害虫
4/8 *バイコラール水和剤
+リンナックル水和剤
黒星病、赤星病等
5/10 2×5mmの細目防虫網掛け
ナシヒメシンクイ成虫の翅の開張は約12mm。
シンクイガ等の侵入防止対策
5/22 粘着くん散布 アブラムシ防除
5/28 粘着くん散布 アブラムシ防除
6/10 フェロモントラップ設置 ナシヒメシンクイ雄成虫の捕獲
(発生数調査用)
6/12 コンフューザーP設置 シンクイガ等の交信障害
7/1 *スプラサイド+キャップレート+機能水 アブラムシ、シンクイムシ類、黒星病
7/20 *スミチオン+ベルクート+機能水 シンクイムシ類、黒星病
8/6 *スカウトフロアブル+アンビルフロアブル+機能水 シンクイムシ類、黒星病、輪紋病
8/21 *DDVP+スコア+機能水 シンクイムシ類、黒星病、輪紋病
9/19 *スカウトフロアブル+オーソサイド+機能水 シンクイムシ類、黒星病、輪紋病
10/8 収穫終了

* 農薬防除
** 4月から9月末まで、週一回機能水+漢方薬で防除を行なった。

果実の収量と秀品率

両処理区の果実は無事に収穫ができた。総合管理区の幸水は黒星病が多く発生したため、収量と秀品率が著しく低下し、慣行区との格差が大きくなった(表3)。また、豊水では幸水ほどではないが、黒星病の被害により収量・秀品率において慣行区よりも若干低くなった。しかし、売上面で総合管理区が慣行区を勝る結果になった。この原因は、総合管理区では収穫量の約5割を通信販売により直販したためである。新高では、慣行区と同じ収量が得られた上に、秀品率・売上では慣行区よりも優れた結果がでた。この原因として、秀品率では、栽培面で総合管理区は有袋栽培を行ない、慣行区は無袋栽培をした点、受粉期に霜害により受けた影響が、総合管理区より慣行区の方が酷かった点の2点があげられる。また、売上に関しては、総合管理区では収穫果実を低温貯蔵し、年末に直販した点、慣行区では、出荷時期が臨界事故の時期と重なり風評被害により価格が低下した点の2点が考えられる。

表3 果実の収量、秀品率および売上

処理区 品種 収量(トン/反) 秀品率(%)* 売上(万円/反)
総合管理区 幸水 1.0 50.2 32.1
豊水 2.6 68.9 87.1
新高 3.0 84.2 108.5
慣行区 幸水 2.5 84.5 77.2
豊水 2.8 72.5 74.8
新高 3.0 68.2 66.7

*秀品率は市場出荷の際の秀品優品を基準として求めた。

考察

ニホンナシの果実は発育時期が長いことや対象病害虫の種類が多いため、完全無農薬栽培は現時点ではかなり困難だと思われる。特に、黒星病とシンクイムシ類の対策はナシ栽培にとって、最大の問題である。

本防除暦の病害虫対策は豊水・新高では、充分な成果が得られ、慣行防除並に病害が抑えられた(表3)。しかし、黒星病に非常に弱い品種の幸水では黒星病が多く発生したため、果実の収量と秀品率が著しく低下した。また、4月中旬から6月下旬まで農薬を散布しなかったため、アブラムシやマイマイガなどの被害が、見受けられた。よって、今後、幸水の黒星病およびコンフューザーPの対象外害虫対策としては、被害の発生状況をよく観察した上での月1回の農薬防除が必要であると考えられる。

無袋栽培においてシンクイムシ類の被害は、とくに大きな問題であり、その中でもナシヒメシンクイ、モモシンクイガ、ナシマダラメイガ、モモノゴマダラノメイガなどが重要である(足立、1999)。今回の実験で観察されたシンクイムシ類の幼虫は、2種類である。一種類は、ナシヒメシンクイ(Grapholita molesta Busck)で、体は円筒形で、体色がピンク色をしている。また、体長が老熟したもので約1cmほどになる。もう一種類は、ナシマダラメイガ(Ectomyelois pirivorella Matsumura)別名ナシオオシンクイと呼ばれているものだと思われ、幼虫の体長は、老熟したもので約2cmほどになる(図1)。そして、この2種類が、茨城県千代田町近辺での主なシンクイムシ類と考えられる。

シンクイムシ類・ハマキムシ類に対しては、本対策である2×5mm細目防虫網の被覆+コンフューザーPの設置で充分に防除できると考えられる。また、コンフューザーPの設置区は、大面積ほど効果が高いのだが、今回ほどの面積でも十分な効果が得られた。しかし、さらに効果的に使用するには、一個所に個人で広い面積を所有している生産者が少ない今回のような実施地域では、地域全体で協力して導入する必要があると考えられる。

このように、病害虫防除のすべてを合成農薬に頼らなくても十分に栽培が可能であることが証明された。これは、持続可能な農業という点において、重要な意味を持っていると思う。実際、生産者の立場から見れば、十分な品質と収量が得られるのであれば、周囲に気を配りながら、自分達は防護服に身を包んで散布しなければならない合成農薬の回数を減らしたいと思うのは、環境保全型農業の推進や生産者の高齢化に伴なう作業の省力化の点から考えても当然のことである。しかし、現在の農業の現状において急激な変革は、困難であると言える。だからこそ、私達は、このような総合的病害虫管理によって、徐々に実績を積み重ねて合成農薬に頼りきった状態から脱却すべきではないだろうか。

参考文献

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  3. 大久保憲秀. 1998. アブラムシ類の天敵ナミテントウ. 農業総覧. 病害虫防除・資材編 第11巻. 農文協. 81-89.
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  5. 岡田斎夫. 1999. 生物農薬研究開発の現状と展望. 生物農薬:その現状と利用シンポジウム(赤羽会館)講演要旨. 1-26.
  6. 嘉田良平.1998.持続可能な日本農業への道.農業技術.54(4):186-188.
  7. 河野 弘. 1996. 強電解水農法. 農文協. 83-93.
  8. 中筋房夫. 1998. 総合的害虫管理の現状と展望. 今月の農業. 42(10): 17-22.
  9. Francis, Charles A. and Madden, J. Patrick, 1993. Designing the future: sustainable agriculture in the US. Agric. Ecosyst. Environ. 46:123-134.
  10. Schaller, N. 1993. The concept of agricultural sustainability. Agric. Ecosyst. Environ. 46:89-97.
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