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「化学的土壌ストレスの深刻化とその対策」

新進株式会社 農業技術チーム マネージャー 農学博士 杜 建明
新進株式会社 代表取締役社長  玉造 和男
有限会社 ユニオンファーム 研究員 福田 与一
研究員 大高 昌明

はじめに

戦後の経済成長に伴ない農業の近代化・圃場生産力の強化が推進され、田畑への大量の化学肥料が投入され続けた。そして、現在に至り、それが原因による農業環境の悪化が深刻な問題になっている。この問題は、化学肥料内の副成分として存在する硫酸根や塩素等の強酸性陰イオンが原因と考えられている。これらの副成分の一部は作物に吸収されるが、大部分は土壌中に残留して、土壌pHの低下や塩類集積の起因となっている。特に、ハウス栽培では、一般に集約型の多肥栽培が繰り返されることから、必要量以上の化学肥料の投入による副成分の蓄積が、土壌の肥料過剰および化学的ストレスを引起こしている。一般的に、このような施肥管理によって引起こされる土壌酸化(pH低下)や塩類集積を化学的土壌ストレスと定義している(小野、一九九四)。これらのストレスは、土壌で生育する作物にも当然影響を及ぼし、発芽・活着・生育障害および要素(例えばカルシウム)欠乏などとなって現われることが多い。

そこで本稿では、ハウス栽培における化学的ストレスの実態、野菜生産への影響およびその対策について概要的に紹介してみたい。

土壌ストレスによる野菜の被害

通常、土壌pHは、6.0〜6.5が望ましいとされている。土壌pHが低いと、作物生長の不良の原因となる。また、EC(電気伝導度)で表わされる土壌塩類集積は、数値が高いほど、塩類集積が酷い。通常、土壌ECは1.0mS/cm以下が望ましく(山崎、一九九八)、1.5mS/cm以上になると、作物生育阻害または、枯死を起こす恐れがある(第1、2表)。とくに、緩衝能の低い砂土は、塩類集積障害を受けやすい。

第1表 土壌EC値と野菜の生育阻害・枯死限界(高知農試、単位 mS/cm)

土 壌 生育阻害限界点 枯死限界点
キュウリ トマト ピーマン キュウリ トマト ピーマン
砂 土 0.6 0.8 1.1 1.4 1.9 2.0
沖積埴壌土 1.2 1.5 1.5 3.0 3.2 3.5
腐植質埴土 1.5 1.5 2.0 3.2 3.5 4.8

当社農場のハウスは沖積埴壌土である。圃場内にチンゲンサイ、ホウレンソウ、レタス、シュンギクなどを栽培しているが、生育不良地帯が数カ所現われている(第1図)。これら生育不良部分を土壌分析した結果、生育不良の原因は、主に塩類集積であると考えられる(第2表)。ECに注目して生育状態を比較してみると、ECが1.42 mS/cm以下の土壌であれば、正常に生育が進んだが、2.02 mS/cm以上の土壌になると生育不良が顕著に現われた。この塩害の症状としては、野菜の生育速度の鈍化と葉の濃緑色が挙げられ(第1図)、時には日中萎凋することもあるので(蟻川、一九七一)、圃場の生産量が極端に低下する。

第2表 土壌分析の結果 (新進株式会社、2000年)

圃場の位置 有効態燐酸mg 交換性塩基(mg/100g) PH(KCL) EC(mS/cm) 作物 生育
石灰(CaO) 苦土(MgO) カリ(K2O)
A 49.0 612.0 114.0 305.0 5.09 2.83 チンゲンサイ 不良
B 38.8 434.0 58.5 118.0 5.25 0.58 チンゲンサイ
C 53.0 536.0 92.2 328.0 4.63 3.00 ホウレンソウ 不良
D 27.9 473.0 60.1 117.0 5.40 0.53 ホウレンソウ
E 27.0 603.0 131.0 161.0 5.10 2.02 レタス 不良
F 11.0 498.0 81.0 56.0 5.70 0.38 レタス
G 19.0 567.0 123.0 219.0 5.20 2.02 シュンギク 不良
H 28.1 552.0 77.1 118.0 5.18 1.42 シュンギク
適正値の範囲 15〜30 300〜500 30〜60 20〜40 5.5〜6.5 0.3〜0.5    

 この圃場における塩類集積の原因としては、土壌カリと苦土の高含量が考えられる。第2表から分かるように、生長不良の塩類集積区は、カリ含量が161.0 mg/100g以上を示しているので、適正値の範囲(山田、一九九八)の5〜10倍であるため、塩類集積の主な原因であると言える。また、土壌中のカリ含量が高ければ高いほどECが高くなる(第2表)。さらに、生長不良区の苦土含量は92.2 mg/100g以上あり、適正値の範囲の3倍程になるため、これも塩類集積の一因であると考えられる。石灰とリン酸の含量は、ほぼ適正の範囲であり、塩類集積の原因ではないと思われる。故に、この圃場における塩類集積の主な原因は、カリの集積であると考えられる。この原因は、過去20年間、落花生と大豆を栽

 

A チンゲンサイ生長不良 B チンゲンサイ生長良
C ホウレンソウ生長不良 D ホウレンソウ生長良
E レタス生長不良 F レタス生長良
G シュンギク生長不良 H シュンギク生長良

第1図 化学的土壌ストレスによる野菜生長への影響

(A〜Hの土壌分析結果は第2表を参照)

 

第2図 化学的土壌ストレスによるチンゲンサイ(左)とシュンギク(右)のカルシウム欠乏症

培し、全施肥量を化学肥料で施されていたため、土壌中にかなりのカリが蓄積されている。また、化学肥料使用による土壌の酸化も顕著であり(第2表)、土壌ECが高いほど土壌pH が低い結果がでた。そこで、土壌改良の第1段階として土壌pH矯正の必要がある。

ECが高い地区で生育中のチンゲンサイ、シュンギクでは、カルシウム欠乏が併発している(第2 図)。チンゲンサイは中心部の幼葉が褐色を呈し、これを中心として若い葉の先端から順次変色が周辺に及ぶ。シュンギクは、本葉が8〜10枚くらい展開しているころ、心葉の葉縁が褐変する心枯症が発生する。正常な心葉および心枯れを起こしたものの養分含有率を比較すると、マグネシウム、カリウム、リン、ホウ素などの成分はほとんど差が表れなかったが、カルシウム含有率は各々0.33%および0.16%と数値に差が現われた(木村、一九九〇)。そこでカルシウム(カルプラスなど)を葉面散布すると症状の発生は大幅に減少した。このことから、心枯症はカルシウム欠乏による症状であると考えられる。元来、カルシウムは植物体内では、あまり移行性がない元素であるため、不足による欠乏症は新葉・生長点・結球部・果実に発生する。花卉類では、キク・トルコギキョウ・ユリなどの葉先枯れ、チューリップ・バラの首折れ曲がりなどの症状がある。野菜では、トマト・ピーマンの尻腐れ、ハクサイのアンコ玉、レタス・キャベツの心腐れ症、カブ・タマネギ・セルリーの心腐れ症などが知られている。土壌カルシウム含有量が十分である場合(第2表)のカルシウム欠乏症発生(第2図)の主な原因は根圏 pH の低下,根圏 EC の上昇、イオン間の拮抗作用(カリ過剰など)などを上げられる。

土壌ストレスへの対策

全国で、このような化学的ストレスを起こしている土壌はかなりあると思われる。とくに化学肥料による多肥栽培で、連作をされ続けた施設栽培の圃場は、非常に酷い状態であると考えられる。何度も播種しても正常に生育せず、何を栽培しても生産ができない場合は、まず、土壌の化学的ストレスが原因であると考えられる。土壌診断をすれば、ECが1.5 mS/cm以上であることは、確実であろう。この状態まで土壌状態が悪化すると、土壌ストレスを改善しなければ、今後その圃場では作物の生産を期待することはできない。

土壌の酸化は、炭酸カルシウムなどの石灰資材の施用により緩和することができる。矯正に必要な石灰量は、土壌によって異なるが、一般的に土壌pHを1.0上げるために、砂質土で100kg程度、埴壌土で200〜300kgの苦土石灰や消石灰などが必要とされている(山崎、1998)。

土壌に塩類が集積をすると作物に生育障害が発生するので(第1,2図)、塩類集積の対策なしには、圃場の生産力を維持向上することができない。塩類集積に関しては、根本的・有効的な対策技術が確立されてないが、軽減と改良の方法は、幾つか存在するので紹介しよう。しかし、土壌塩類の除去軽減対策を計ることよりも、塩類を集積させないことの方がより重要であって、施肥設計には十分留意する必要がある。

1. 有機肥料中心の農業を確立する

堆肥の施用は土壌のECを下げ、塩類障害の軽減に有効な手段である。一般に有機質の肥料は、土壌中に残留するような副成分をほとんど含まないので、連用しても塩類集積を引き起こす危険性は少ないとされている。有機肥料の施用は土壌改良および作物収量の向上に対する効果的な手段である(Neilsen et al., 1998; Pedreno et al., 1996 )。有機肥料の投入量は年間10a当たり3〜5トンが適当であると考えられる(本多、一九七七、Neilsen et al., 1998、小野寺、二〇〇〇)。ここで施用される堆肥は悪臭がなくなるまで腐熟し、害虫の誘因源とならない完熟堆肥の施用が基本となる。投入時期は、完熟堆肥のように、既に分解を終えたものは施用時期が限定されないので、播種・定植の一週間前でもよい。また、わらや青刈緑肥を投入する場合は定植する2〜3ヵ月間前に投入するのが望ましい。

 一方、植物質の有機資材を焼いた草木灰は、昔からカリ肥料として利用されているように、カリ含量が多い。作物の残渣を集中的に圃場で焼却し鋤き込むと、その箇所でカリ過剰と化学的ストレスを起こす恐れがある。植物を餌とする家畜の牛、馬の糞はカリ含量が多いので、過剰投入によってカリの集積を起こしやすい(本多、一九七七)。また、産卵鶏の鶏糞は餌に石灰分を与え、糞の消毒に石灰を散布するので、石灰分が多く、15〜20%も含有している場合もあるので、10a当たり300kg以上施用しないほうがよい。つまり、有機肥料を投入しても、常に土壌状態と有機質資材の成分を調べながら、投入量を決めることが大切であると考えられる。

2. 低ストレス型施肥法を採用する

化学肥料を施用する場合には施肥の段階で塩類濃度を高めないような工夫をしておくことが重要である(小野、一九九四)。すなわち、必要量以上の養分を土壌に投入しないことが目標となる。また硫酸根や塩素などの余分な副成分を土壌に投入しないことがポイントである(小野、藤井、一九九四)。硫安・過石・硫加に比べ、硝安・リン安・硝加の組み合せは三要素以外の副成分がないので、施肥すれば、土壌のpH低下や塩類集積は回避されて作物の良好な生育が維持されやすい。

3. 水による除塩 

土壌中に集積した塩類のうち溶解度の高い塩は、水で洗い流して除塩をすることができる。ただし、湛水(210mmの降水量に相当)処理で塩類集積や硝酸チッソ濃度が著しく低下したが、作付中に土壌中の毛管水の上昇で、塩類の表層への再集積も認められたので、抜本的な手段であるとは、言い難い。

4. クリーニング作物による除塩

クリーニング作物(吸肥力の強い作物)を導入することにより、土壌中の過剰肥料を多く吸収できる。クリーニング作物を肥料無施用で栽培し、出来た大量の植物体を塩類集積圃場から出し、残存肥料の集積にストップをかけることが出来る。クリーニング作物には、ギニアグラス、ソルガム、トウモロコシ、ソルゴー、シコクビエなどが利用されるが、除塩効果はトウモロコシが最も高いとされている。例えば、火山灰土壌でトウモロコシを夏季に55日程度栽培し、土壌のECは2.5mS/cmから約1mS/cmまで低下したという例がある(小野、一九九四)。デントコーンおよびソルゴーはカリの吸収量が多く、一作で10a当たり、30kg以上である(中嶋、一九八六)。また、作物の根群量は一般に土壌栄養富化の条件下では少なく、養分不足下で増加傾向を示す。よって、クリーニング作物の導入により、野菜の根群発達が促されるとも考えられる。

おわりに

過去五〇年間にわたる化学肥料と農薬などの大量投入は近代的な農業の発展には重要な役割を果たしてきたが、環境保全、生物資源保護、人類の健康などに負の影響を与えているという新しい問題が提起されているのも事実である(杜、福田、二〇〇〇)。たとえば、潅水や湛水による除塩は、ハウスからの排水による河川水や地下水の環境汚染が問題となっている(小野、一九九四)。しかし、これらの塩類集積の問題に対応しなければ、作物は正常生長量の3割にもならない(第1図)。このような化学肥料農法のままでは、永遠に農業生産が持続可能であるとは言えない。高濃度の塩類集積圃場では、表土の除去・客土も必要となってくる。これらの作業は、多大な経費と労力をも要し、また除去された表土の処理、導入する客土の質などを考慮すると容易ではない。つまり、塩類の集積など化学的ストレスを予防する施肥管理が大切であると考えられる。

参考文献

1、 蟻川 浩一、一九七一、ハウス土壌における塩類濃度とその対策、農業および園芸、四六(一):二五七〜二六一
2、 本多 藤雄、一九七七、施設栽培における基盤整備土壌の管理対策「4」、農業および園芸、五二(六):七九五〜七九七
3、 木村 良仁、一九九〇、シュンギク・心枯症、農業技術大系(追録第1号)、農文協、東京、第四巻、四〇五〜四〇八
4、 中嶋 靖之、一九八六、野菜作におけるクリーニング作物の種類と導入効果、農業および園芸、六一(七):八六九〜八七四
5、 Neilsen, G. H., et al. 1998. Evaluation of organic wastes as soil amendments for cultivation of carrot and chard on irrigated sandy soils. Can. J. Soil Sci. 78:217-225
6、 小野 信一、藤井 義晴、一九九四、ハウス栽培における土壌の塩類集積とその回避対策、土肥誌、六五:六二〜六五
7、 小野 信一、一九九四、ハウス栽培における土壌の塩類集積回避法、農業および園芸、六九(八):八八八〜八九二
8、 小野寺 政行、二〇〇〇、露地野菜に対する収量と環境保全からみた堆肥の施用限界量、今月の農業、四四(十一):八四〜八八
9、 Pedreno, J. N. et al. 1996. Improving the agricultural value of a semi-arid soil by addition of sewage sludge and almond residue. Agric. Ecosyst. Environ. 58:115-119
10、 杜 建明、福田 与一、二〇〇〇、ナシ栽培の総合的病害虫対策、今月の農業、四四(三):一一二〜一一六
11、 山崎 浩司、一九九八、圃場条件と肥料の種類・量の判断、農業技術大系(追録第23号)、農文協、東京、第一巻、三四九〜三五一
12、 山田 裕、一九九八、交換性塩基、農業技術大系(追録第9号)、農文協、東京、第四巻、一三一〜一三二

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